15 鉄人28号がいる復興の町新長田」

アニメ原寸大18メートルの鉄人28号が阪神淡路大震災で多大な被害を受けた神戸市の新長田駅の南西に登場した。
2009年5月からの建設時から話題を呼んでいたが、9月に完成してからは多くの見物人を集め、長田区や神戸の町に活気を与えている。
今回は鉄人28号とその原作者横山光輝氏の代表作のひとつの「三国志」で街を活気付けようとする「新長田」周辺をご案内。


     アクセス  JR山陽本線「新長田駅」
            地下鉄海岸線及び西神山手線「新長田駅」
            六間道商店街は地下鉄海岸線「駒ヶ林駅」

今回の街歩き資料

 15 「鉄人28号の街 新長田」

 JR新長田の駅前広場に出る。新長田駅前と聞いてきたが、この駅前広場には鉄人28号の姿がない。駅前のタクシー乗り場の横には「靴の町長田」を象徴する靴がはめ込まれたレリーフのようなオブジェはあるが、鉄人28号の姿は見えない。
周りを見渡すと、案内のポスターが張り出されていて、大丸百貨店の入った「ジョイプラザ」の向こう側の若松公園にあることがわかった。
ジョイプラザの中を通って反対の入り口に行くと大勢の人が天を仰いでいる。目の前には青い大きな円筒形のものが。扉を出てその円筒形のものを上に上にと目で追って顔を上げていくと、昔アニメで見たあの懐かしい顔の鉄人28号がいた。

高さは15.6メートルで、足を伸ばした状態にすると18メートルになり、これはアニメで描かれたものと同じ大きさになるらしい。
ビル5階に相当する高さは、さすがにデカくて、相手を迎え撃つポーズはすごい迫力。どこかで正太郎少年が鉄人28号を操るリモコンを握っていて今にも動き出しそうなリアル感もある。

総工費1億3,500万円の内、神戸市が4,500万円を出しているが、残りは個人や企業からの寄付や協賛金、募金でまかなわれた。その資金調達の中心になったのが、神戸を元気に!を合言葉に長田区の商店主らによるNPO法人(特定非営利活動法人)「KOBE鉄人PROJECT(こうべ鉄人プロジェクト)」。このNPO法人は神戸出身の漫画家横山光輝氏の偉業をたたえモニュメントや記念館の建設を目指していて、2006年からの商店街をはじめいろいろなイベントでのモニュメント建設寄付金募集を経て今回の巨大モニュメントを完成させた。
東京のお台場でも等身大ガンダムが展示され話題を読んだが、あちらは期間限定のイベントとして制作されたのだが、この鉄人28号は長田の地に神戸復興のシンボルとしてずっと立ち続ける。(ガンダムは静岡のJR東静岡駅前に移設され2010年7月から恒久展示が決定。)

製造したのは「KOBE鉄人PROJECT」の会員にもなっている岸和田の鉄工所「北海製作所」。何故、岸和田?と、思う向きもあるが、そこは餅は餅屋、関西の金属モニュメントの老舗に任せたということなのだろう、見事に巨大な鉄人を作り上げている。二本の足の地下でこの巨大な鉄人をアンカーが支えている。
鉄人の周辺の舗装も終わり、鉄人に触れながら記念写真を携帯のカメラで撮る人が足の周りに連なっている。来る人は絶えず、すでに神戸の№1の観光スポットになっている事は間違いなさそうだ。
鉄人28号は長田区周辺に置かれている多くの自動販売機にも描かれている。これも「KOBE鉄人PROJECT」が展開しているもので、自動販売機の売り上げの一部を飲料メーカーから協賛金として得る仕組みらしい。

ここから地下鉄の駅に置かれていた周辺の情報が書き込まれた「新長田回遊ルートマップ」を参考に歩いてみることにする。街頭にある大きな新長田周辺マップにはちゃんと鉄人が大きく描かれているのに、この地図には残念ながら鉄人登場のずっと前からあるもののようで鉄人は示されていない。 

  



 
 京都の着倒れ、大阪の食い倒れ、そして神戸の履き倒れと言われる神戸の靴産業。その中心の長田に来ているのだから、先ずはケミカルシューズ発祥の地「長田」を代表する施設「シューズプラザ」を訪ねることにして、鉄人28号の視線が向いている海側の商店街とは反対側(山側)のJRのガードの方に向かう。ガードをくぐった北側の整備された道の駅前への壁面には長田がケミカルシューズの街になっていく歴史が示されていて、ゴム靴から運動靴、そして合成皮革のケミカルシューズへの変遷や壊滅的な被害を受けた阪神大震災以降の取り組みなどが紹介されている(「日本ケミカルシューズ工業組合」参照)。


JR新長田駅は地下鉄西神山手線と海岸線の新長田が重なっている神戸の西側の中心的な駅で、駅の南側には高層のショッピングモールが広場を囲うように建っているのだが、それとは対照的に駅の北側にはこれといって何も見当たらない。駅前広場に抜けるトンネルの前で信号を渡り、地図に示された「アスリート靴型歩道」を通ってシューズプラザまで行くことにして歩き始めると、早速、シドニーオリンピック女子マラソン金メダリストの靴型発見。一対の靴底とサインがあり、その先に対になった靴の表側があり「'00 シドニー マラソン 高橋尚子」と記されている。「'04 アテネ 野球 松村有人」「'92 アトランタ '96 バルセロナ テニス 沢松奈生子」そしてアテネオリンピック女子マラソン金メダリスト「'04 アテネ マラソン 野口みずき」へと続く。






四つ角で靴型を追う視線を上げるとハイヒールを模した大きな赤いオブジェが見える。ここが「シューズプラザ」で、新長田から徒歩3分、北側の大開通の山陽電鉄「西代駅」からも徒歩5分。1階がメーカー直販のテナントスペースで靴のオーダーメイドやファッション雑貨などの店があり、2階には手作りカバンの教室や靴ビジネスの発展のための展示スペースや会議室などがある。現在でも国内産では85%のシェアを占めているという長田だが、中国などから入ってくる安価な製品との競争は、付加価値の探求で成長してきた長田の中心産業にも震災以上に深刻な影響を与えているんだろうな、と中国製の靴を履いていることに気付いて考えてしまった。
靴型歩道はまだまだ続き、野球やバスケット、サッカー、ラグビーのオリンピック選手やプロスポーツ界で活躍する一流のアスリートたちの名前が刻まれている。そしてプロボクシングで黄金のバンタムの史上最強とも言われる世界チャンピオンの長谷川穂積選手(2010年5月10度目のに防衛失敗)の名前も見つかった。
靴型を辿って行くと、震災の教訓から防火設備や非常用トイレなどを備えた水笠通公園に出る。公園の向こうには神戸の霊山「高取山」が見える。標高320メートルの高くもない山だが、山頂に「高取神社」があり、ハイカーだけでなく神戸の信仰の山として多くの人が訪れる。

  





  公園の東端まで歩き、今度は南(海側)に下る。JRの高架を超えて暫く行くと阪神高速神戸線が上を走っている国道2号線に出る。その向こうに「本町筋商店街」のアーケイドが見える。新長田の駅からショッピングモールや商店街がアルファベットの「G」のように並んでいるが、この商店街はGの最後の縦線に当たる。
阪神大震災でこの地域はまさに壊滅状態になってしまい、新長田駅の南側にあった5つの商店街も市場もまた例外なく瓦礫の山になってしまっていた。震災後もなかなか復旧は進まず、それまでの活気を取り戻せずにいたのだが、ここ何年かでようやくアーケイドが整備され、商店街としての体裁が整えられてきた。
商店街の中に入ると明るく幅の広い通りはレンガで舗装されていて、アーケードの支柱には三国志のペナントが飾られている。休日で飲食店以外はほとんど開いていないこともあってか人影はまばら。最近のどの街中にある商店街でも同じようになってしまっているが、飲食店と病院が多い。アーケードの南端の手前に長田の台所と言えばいいのか、「丸五市場」の入り口があり、そのすぐそばに三国志の3体の石像の内の一つ「諸葛亮孔明」の像が立っている。
南北に伸びたアーケードが終わり、東西に伸びたアーケードを持つ「六間道商店街」に入る。この商店街は六間(11㍍弱)の道の名前どおり本町筋商店街と比べると道幅がかなり広く、綺麗にタイル舗装されている。この商店街の中心あたりに六間道地蔵尊がある。小さなお地蔵さんだが、立派なお堂に幟もつけて鎮座している。地蔵盆は毎年賑やかだという。
先に進むと、信号のある交差点の向こう側に2つ目の石像「周瑜」が立ち、その横のビルの壁には地下鉄海岸線「駒ヶ林駅」と書かれている。南に一筋入れば、天然温泉の「」があるが、今回は寄らない。先に進むと鉄人28号や三国志のパネルを置いた「六間道なごみサロン」や騎馬戦車に乗った曹操の「魏武帝廟」などがビルのテナントの合間にある。






六間道商店街のアーケードが切れるところで、また南北に続くアーケードがつながっている。ここは「大正筋商店街」で、六間道と同じくらいに道幅が広い。特徴としては通りに一軒ごとの商店が並んでいるわけではなく、大型のマンション及びビジネスビルの間にアーケードが掛けられ、ビルの1・2階のテナントが商店街を作っていること。商店街を形成しているマンションやビジネスビルは全て「アスタくにづか」で、新長田の駅に近い順に1~6号館まであり、その5号館と6号館の間を新長田方面(山側)に歩き始める。と、すぐに右側5号館に震災ミュージアムがあり、阪神大震災の際の惨状と、その後の復興の取り組みがパネルで展示されている。
さらに進むと商店街の中を大きな道が横切っている。その道の東側奥に「西神戸センター街」のアーケードが見える。商店街の大きな通りに面した角には現代美術のオブジェが置かれていて、長田の復興を見守っている。さらに北に進むと、「アスタくにづか4号館」には「Art Theater dB 神戸」や「KOBE鉄人PROJECT」の本部、等身大「関羽」像があり、その北のブロックの「アスタくにづか1号館」には「神戸映画資料館」が入っている。






     

  二号線を渡ると鉄人28号のいる公園に続く商店街「新長田一番街」。ここも新長田再開発で建てられた3棟の「アスタプラザ」ビルの間にアーケイドが掛けられ、そのビルのテナントで商店街を形成している。「アスタイースト」ビルには家電量販店や遊技場などが入っていて、「アスタプラザウエスト」は地上26階の超高層タワーマンションで、1・2階に沖縄の食品雑貨を販売する「琉球ワールドショップ」などが入り、北側の「アスタプラザファースト」には飲食店が中心になっている。
アーケイドの向こうに鉄人28号の雄姿が見え、相変わらず大勢の人がカメラや携帯を手に見上げている。新長田一番外のアーケイドを出て右に曲がった通りには鉄人28号の頭部が笠になった街灯が並んでいる。それを見上げながら駅前広場へ向かった。
久しぶりに歩いた新長田の街並みと神戸の復興のシンボルとしての鉄人28号は、今までとは違う街並みにもかかわらず、懐かしさと共に確かに復興から発展に繋げようとするこの街の持つ勇気も感じさせてくれて、とても温かな気持ちで新長田の駅にたどり着いた。

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